tebikae

て‐びかえ【手控】 〘名〙 ①心おぼえに手許に控えておくこと。おぼえがき。また、それを書く手帳。[日国]

2019年2月に観た映画

~もくじ~

具体的な内容にはほとんど触れないけど、事前情報ゼロで観たい人は読まない方がいいと思うな~くらいの感じです。

映画館で観たもの

映画刀剣乱舞 ~いいなあ刀剣乱舞くんは!こんなに出来のいい実写映画にしてもらえて!~

2019.02.12 tue @TOHOシネマズ六本木

touken-movie2019.jp

面白いという噂は散々目にしてたんですが、ここまで面白いとは正直思いませんでした。泣かされるなんて聞いてなかったよ~。

まず、物語がとても魅力的だった。ちょっとミステリみたいな要素があって、どうなるんだろうってずっとどきどきしてたし、謎が解けるシーンのカタルシスもすごかった。

そして、鈴木拡樹がすごかった。お名前と、何やらとても人気のある俳優さんらしいってことしか知らなかったんですけど、あの人まじの付喪神ですよね?千年以上前に作られた刀の。だって、アクションのシーンとか、スローモーションになるところが何か所かあったんですけど、その間もずっと千年以上前に作られた刀の付喪神の顔してたもん。いや~、あの顔見たら私でも「ここスローモーションにしとこ!」って思いますわ。

何か褒めるときに他の作品を引き合いに出すのは良くないと思うので一応伏せますけど、ある漫画の実写映画を観たとき、内容どうこうの前にその映像や音響のクオリティの低さがショックだったんですよね。人気のある作品だし、連載も終わろうというところになってからの実写化で*1、さすがにお金かかってるだろうと思ったのに、え、それでもこれなの?って。邦画では、二次元のキャラクターを違和感なく実写にするのは無理なのか?と、なんかすごく落ち込んだんですよ。

でもさあ!!できるんじゃん!!ね!!

いや、わかんないですよ、刀剣乱舞は予算の桁が違って、「その金額出せば誰だってちゃんとした感じの映像にできるわ!」って額のお金がかけられてるのかもしれないんですけど。でもね~、そうだとしても、お金かければいい映画ができるってわけではないでしょうからね~。

映画を観るにあたってゲームのシステムくらい分かってた方がいいかなと思ってアプリ版をダウンロードしたんですけど、予習しなくても充分楽しめる映画でしたね。強いて言えば、それぞれの刀が誰の持ち物だったのかを知ってると話が早かったかな、くらい*2

でも、「あ、これゲームに出てくるボイスだ!」って分かったのは良かったです。きっともっとちゃんとゲームをやってる人にとっては、うれしいシーンが他にもあったんじゃないでしょうか。ゲームのファンにも目配せしつつゲームをやったことない人にもちゃんと分かるように気を遣うのって大変だと思うんですけど、そこがクリアされててなんだか幸せな気持ちになりました。

あと、ゲームをやっておいて良かったのが、映画公開に合わせたキャンペーンで、映画に登場した刀剣男士が全員もらえたこと。映画に出てくる人出てくる人知ってる人だったので「あれ?またうちの本丸にいる人だ」「この人もいる人だ」「いる人ばっかりだ!」となったんですが、よく考えたら逆でした。予習しなくても大丈夫とはいえ、知ってるキャラクターが出てくるとやっぱりテンションが上がりますね。

正直刀剣乱舞のゲーム自体に関してはサイコロの出目が全てを握りすぎだし単純作業の繰り返しだしで、映画を観に行く頃には既に音を上げかけていたんですけど、スクリーンで活躍してるところを見たらまんまと愛着が湧いてしまい、その後もわりと真面目にやっています…へへへ……

あと、CDBさんのレビューがすごくよかったので自分用に貼っときます。「ともすれば女性向けであるというだけで偏見を持たれがちなゲーム文化の世界観について、ファンの側に立ち、このサブカルチャーの美しい機微を外部に対して代弁するように、力強く繊細に語っていく」っていうのを、女性でも刀剣乱舞ファンでもない人(たぶん)が言ってるのがいいなって思いました。

realsound.jp

 

ライ麦畑の反逆児/ひとりぼっちのサリンジャー 〜「孤独」とか言って、めっちゃ結婚するやん〜

2019.02.17 sun @新宿シネマカリテ

www.rebelintherye-movie.com

確認したところ、村上春樹訳の「キャッチャー・イン・ザ・ライ」が出たのは2003年らしい。13歳と今ではだいぶ印象が変わりそうだし、もう一度読み直したいですね。

もうひとつ、びっくりというか意外だったのが、作中でサリンジャーが結婚して子供二人の父親になってたこと。

サブタイトルは「ひとりぼっちのサリンジャー」だし、キャッチコピーも「孤独のなかで言葉があふれ出す」だし、なんかもっと完全に社会から隔絶されて天涯孤独なのかと思ってたんですけど……それほど当時は結婚して家庭を持つことが当たり前だったってことなのか……?

いや、まあ、結婚してたら孤独じゃないというわけでも、子供がいたら社会に適合できてるというわけでもないとは思うのですが、もし仮に完全にオリジナルで「孤独の中で名作を書き上げた小説家」の映画を作ろうとした場合、結婚させないし子供も持たせなくないですか?実話を基にしたフィクションだからこそなのかな、と思ったんですよね。

しかし、この人、お父さんとはすれ違いもあるものの、お母さんは初めから彼の才能を認めて応援してたし、学生時代は華やかなパーティに顔を出して女の子に声掛けたりしてるし、「孤高の天才」って感じではないんですよね。挫折もするけど、初めての長編『キャッチャー・イン・ザ・ライ』は社会現象とも言える大ヒットになるわけで、ずっと不遇というわけでもない。

そういう、うまくやれてるっぽいパッと見の雰囲気と、その一方でいろんなことに折り合いを付けられず追い詰められていく様子のギャップが、共感できるところもあれば、「もうちょっとどうにかならんのか」と思うところもあり、後味はあんまりすっきりしなかったんですけど、でも、そのすっきりしないところがよかったような気もします。

とは言ってもね~~、これはちょっとネタバレですけど、序盤の、先生との出会いのシーンがあまりによかったので、関係が拗れちゃうのが本当に悲しくて……最後少し救いのある感じになってはいたけど、実際はどうだったんだろうな……

家で観たもの

屍者の帝国 ~原作かなり忘れてるけどフライデーがこんな儚げな美少年じゃなかったってことだけはわかる~

2019.02.28 thu @U-NEXT 

屍者の帝国 [Blu-ray]
 

心温まるものが観たいな~と思って観たいものリストを眺めていたはずなのに何故か選んでしまった。

原作を読んだのが結構前で、終盤の展開をまるで覚えていなかったんですけど、どんどんファンタジー色が強くなっていって、お?お?おおお???となりました。さすがにこんな異能力バトルものみたいな感じではなかったですよね……?すごい光るしめっちゃビームみたいなの出る……

高い塔から悪い電波みたいなのが出て街中みんなおかしくなっちゃって、ヒーローが乗り込んで行って、悪者を倒して電波を止めさせて、そしたらおかしくなっちゃった人たちみんなしゅわ~~っって治るっていうの、戦隊ものでよくあるやつじゃないですか?

いや、いいところもあったんですけどね、19世紀の世界各地の風景気合い入ってるな~とか、屍者の特徴的な動きはイメージ通りだな~とか。

でも如何せん忘れすぎてて原作と比べてどうってことが言えないので、とりあえずもう一回読もうかなと思います。 

屍者の帝国 (河出文庫)

屍者の帝国 (河出文庫)

 

 

*観たいと思いつつまだ観れてない作品メモ

「天才作家の妻」

ファースト・マン

ヴィクトリア女王 最期の秘密」

女王陛下のお気に入り

「バジュランギおじさんと、小さな迷子」

*1:結果的には2019年3月現在まだ終わってないわけですけど…ってそこまで言うならもう作品名言えって話ですけど

*2:それも本編でも言ってくれるんですけどね

2018年12月・2019年1月に観た映画

12月は一本しか観てなかったので1月とまとめました。

2019年は、新作も過去の名作も、観たいと思ったやつどんどん観る年にするからな〜〜。

~もくじ~

具体的な内容にはあんまり触れないけど、事前情報ゼロで観たい人は読まない方がいいと思うな~くらいの感じです。

映画館で観たもの

ボヘミアン・ラプソディ ~良い音楽を良い音響で聴くのは良い~

2018.12.12 wed @TOHOシネマズ新宿

www.foxmovies-jp.com

IMAXで観ました。良い音の上映で観ることにとても意味がある映画だと思います。テレビで観てたら感動が半減して、「へえ~フレディ・マーキュリーってソロで活動してた時期もあったんだ~」くらいの感じで終わっていたかもしれない。

俳優の演技や脚本や演出がだめだったかというとそういうわけではないんですけど、ただ、ライブに引けを取らない音量、音圧で流れるQUEENの曲の良さが、他の要素の良さをだいぶ引き離して圧倒的に良かったと思うんですよね。

だからね~、アカデミー賞の前哨戦とも言われるゴールデングローブ賞で作品賞と主演男優賞を受賞したっていうのはちょっとびっくりしました。主演男優賞はまだ分かるにしても、作品賞もなんだ!?って。

いや、でも、観終わってすぐ、劇場の出口のところで訊かれたら私も「この映画に作品賞をあげる!」ってなってたかもしれない。そういうエネルギーみたいなものを持ってる映画でしたよね。

ひと月以上経って、落ち着いて振り返っている今の私からは、「やっぱりQUEENの曲っていいね!」賞、「QUEENの曲の魅力に改めて気付かせてくれてありがとう!」賞、「猫を絶対にかわいく撮るという強い気持ちを感じる」賞を差し上げます。

万引き家族 ~安藤サクラのこと思い出しては悔しくて泣く~

2019.01.14 mon @下高井戸シネマ

gaga.ne.jp

ここ半年くらいで一番感情を動かされた映画だったと思います。感想は改めてちゃんと書くことにしたので、観た後のツイートだけ。

あと、急にライトな感想なんですけど、祥太役の城桧吏くん、『誰も知らない』の時の柳楽優弥くんに似てるな~、是枝監督はこういう顔が好きなのかな~~と思ったら、ほんとに好きだったみたいでふふってなった*1

 

あ、エビは無事においしくなりました。

 

マチルド、翼を広げ 〜え……〜

2019.01.16 wed @シネマカリテ

どうしたらいいのかわからない話だった。

どうしたらいいのかわからない話はわりと好きなんだけど。

女の子がちょっと変わり者のお母さんに振り回され、葛藤しながらも、大きな愛に包まれて成長していく……的な話かと思いきや、お母さんの振る舞いが明らかに病院の治療が必要な感じで、それによって主人公の女の子が被る被害が度を越えていて、心温まるどころではなかったですね……。

なんでこんなことになるまで放っておいたんだよお父さん!!周りの大人!!おーい!!

最後はなんか報われた感じで美しく終わっていたけれど、母親が適切な治療やケアを受けなかったせいで犠牲になった彼女の子供時代はもう帰らないのですが……!?と悲しい気持ちが晴れませんでした。

主役の女の子はかわいかっただけに残念です……

家で観たもの

ノートルダムの鐘 ~私もガーゴイルの友達ほしい~

2019.01.19 sat @U-NEXT

子供の頃映画館で観たはずなのに全然覚えてないな〜と思って観てみました。

調べたら6歳だったみたいで、6歳にはちょっと渋すぎたんだろうな、という感じ。

ウィキペディアに、「原作と異なりハッピーエンドで終わる」と書いてあって、え、あれでハッピーだったの?と思ったんですけど、原作の方のあらすじを確認したら確かにディズニーアニメでは有り得ないだろうな!ってくらいのアンハッピーだった。

そんな話をどうしてディズニーでアニメ化することになったのかが気になります。

タッチ(実写映画) ~長澤まさみの顔って結構若い頃に完成してたんだな~

いつだったか忘れたけど観たのを思い出した @録画

実家に帰った時に母が録画していたのを観ました。

良かったところ、長澤まさみがかわいかった、以上。

観てて辛くなるほどひどいことはなかったけど、長澤まさみがかわいかった他は特筆すべき点もなかったかな……。

長澤まさみの見た目が今とあんまり変わらない感じだったので、二十代にはなってるよね、あんな高校生いたらびっくりするよね、と言っていたのですが、公開時18歳だったみたいでびっくりしました。年齢の問題ではなかった。

2018年10月・11月に観た映画

毎月書くのを目標にしてたけど、数が少なかったので2か月分まとめました。

10月なんて家でしか観てない。月に一度も映画館に行かなかったのはちょっと久し振りでした。

~もくじ~

映画館で観たもの

きみの鳥はうたえる ~演技が上手~

2018.11.07 wed @新宿武蔵野館

60代の上司に「若い人に観てほしい」って薦められて観に行ったんですけど、この映画観て「若い人に観てほしい」って薦められる60代、感覚が若いなあ。

全編ほとんど柄本佑染谷将太石橋静河の三人の会話だけで進むんですけど、柄本佑染谷将太は普通の若者の普通の立ち居振る舞いの演技がめっちゃくちゃ上手だった。舞台は函館ではあるんだけど、現代日本に生きている、自分と同じ年頃の人たちの話だな、と感じることができた。「今を生きる私たちのための青春映画」のキャッチコピーに偽りなし。

あと、クラブで踊るシーンが印象的だったんですが、石橋さんはダンサーでもあるんですね。道理で体の動かし方がきれいなわけだ。あのシーン、話が動かないわりに随分ダンスに時間が割かれてるなと思ったんですけど、本職のダンスをご堪能ください!ってことだったのかな。

終わり方が、すごく映画っぽいというか、映像ならではの感じだったので、原作の小説ではどうなってるのか気になります。

それから、函館の映画館シネマアイリスの開館20周年記念作品として制作されたということで、サポートした函館市民たちと思しき名前がエンドロールで流れたのもなんかよかったです。

kiminotori.com

 

ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生 ~ニュート・スキャマンダーがズーウーを手懐けるとこ100回観たい~

2018.11.30 fri @TOHOシネマズ新宿 

おもしろかった!!

目まぐるしすぎ、詰め込みすぎ、っていう感想を見かけたのですが、覚悟してたからかそこまで気になりませんでした。

不親切というか、説明不足ではあったと思う。助かった人と助からなかった人の基準がよくわからなくてちょっともやもやしたので、次作で解決するといいんですけど……でも舞台も違うんだっけ?時系列的にこのすぐ後の話ではないのか?なんか国が違うというニュースを目にした気がする……*1

とは言うものの、映像がきれいで楽しくて、どんどんいろんなものが目に飛び込んでくるわくわく感の方が勝りましたね。3Dの、飛び出方がすごかった。すごく飛び出てた。すごく飛び出ててすごかった。余程3Dが苦手とかじゃなければ3Dで観た方がいいと思う。

あとね~~~~、一作目を観たときも言ったんじゃないかと思うんですけど、ニュート・スキャマンダーの見た目がめちゃくちゃ好きなんですよね~~~~~~。髪型とか服装とか、キャラクターデザイン(?)も好きだし、表情の作り方や動きも好き。全員好きだと思うけど、ティナを追跡するためにものすごい手際の良さでくるくる動き回るとこ、もう超好きでした。

暴れるズーウーを猫じゃらしみたいなやつで鎮めるとこ、そこだけ切り出して500円くらいで売ってくれないかな。

wwws.warnerbros.co.jp

 

家で観たもの

キングスマン ~すごい!全部が冗談みたいだ!~

2018.10.04 thu @dTV

随分前に、コードネームU.N.C.L.E.が好きなら、と薦められてたのをようやく観ました。

ちょっと体調を崩していたもので、なんかすごくどうでもよくて楽しいものが観たいよドラえも〜〜ん!!という気持ちで選んだのですが、まさにぴったりでしたね。

荒唐無稽で、あちこちツッコミどころ満載ではあるんだけど、これだけ全力でやられたら仕方ない。お前さんが本気(マジ)だってことはわかった。私(あたし)ァもう何も言わねえ、好きにやんな!って感じです。

調べたら、漫画が原作だそうで、なんかいろいろ納得しました。

 

キングスマン/ゴールデン・サークル ~すごい!全部が悪い夢みたいだ!~

2018.10.05 fri @dTV

なんか無限にツッコみたいとこあった気がするんだけど勢いに飲まれて全部忘れました。

エルトン・ジョンが……すごかった…………

どこかにあってほしいもの

百貨店が苦境だという。特に地方が厳しいという。

長いあいだ地元で愛されてきた百貨店が、次々になくなっているという。

 

百貨店で買い物をする機会はそう多くない。

時々洋服や靴なんかを見には行くけれど、実際に買うのはひとシーズンに一回か二回。

それから、閉店間際に割引のシールの貼られたお惣菜やら生鮮食料品を、それもふた月三月に一度の楽しみとして買うくらい。

 

でも、勝手ながら、あってくれ、と思う。

私は毎日の買い物は安いスーパーで済ませるけれど。普段の通勤のための服はユニクロで間に合わせるけれど。どこかに、私が普段利用するよりもずっと高級な、ほんとうのお店があってほしい。

 

喫茶店で水割り

私の家の最寄り駅には、急行が停まらない。

退勤の時間帯は、急行や、もっと速い電車ばかりなので、ほとんど毎日手前のどこかで乗り換えることになる。

次の電車まで10分近く空いていたりすると、そのまま途中下車して夕飯を食べて帰ることも多い。

乗り換える駅は二通りあるけれど、どちらも東京の私鉄のちょっと大きめの駅ってまあ大体こんなんだよね、という感じの駅だ。駅前はそれなりに賑わっていて、商店街なんかもあるものの、繁華街というほどではない。道を一本入れば住宅街、くらいの規模の街である。

 

ひと月くらい前だろうか、そのうちのひとつの駅で降りて、古い商店街の中ほど、細い階段を上がった先にある、くたびれた風情の喫茶店に初めて入った。 

恐る恐るドアを開けると、客はなく、店主らしきおじさんがひとりカウンターでお茶か何かを飲んでいた。Google mapで調べた閉店時間にはまだ早かったものの、もう店じまいしようとしていた気配があまりに濃厚で、やっているのか確認してしまった。

 

大丈夫だというので席に座ると、いきなり「昨日、観た?」と聞かれた。

今見ると何のことだかわからない不親切な質問だが、その夜の私にはすぐわかった。ワールドカップの日本対ベルギー戦の話である。

観てません、すごかったみたいですね、ご覧になったんですか。観たよ、おかげで眠くって。そうでしょうね、同僚は仮眠取って観たって言ってました。お客さんも、観たって人が多かったよ。

随分気さくだなとは思ったけれど、これくらいの世間話なら都心を外れたこの辺りのお店ではままあることなのでさほど気にならなかった。

 

おや、と思い始めたのは、サンドイッチとコーヒーを注文した後だ。厨房に引っ込んでからも、おっちゃんの世間話は止まらなかった。

サンドイッチを作り、出し、私が食べている間も、友達か?親戚のおっちゃんか?というレベルの親しげな口調で、喋る喋る。

仕事帰りなのか、という質問から始まって、私の仕事の話、数駅先で一人暮らしをしていると言ったら食生活の心配をされ(「そのサンドイッチ、夕飯なの!?」)、それから最近親元を離れたおっちゃんの娘(社会人二年目だという)の話になり、自分の話をするのもちょっと億劫になってきたので後半は聞き役に回った。

 

頃合いを見て会計をすると、おっちゃんは「もう一杯飲んでいかない?ご馳走するから」と言ってきた。

思ったことはふたつ。このおっちゃん、まだ喋り足りないのか。そしてもうひとつ、ご馳走なんて言うからにはちょっといいコーヒーでも出してくれるのかな、それはちょっと気になるな。

ところが、おっちゃんがカウンターの下から出してきたのはウイスキーのボトルだった。おっちゃんいわく、「ちょっといいやつ」。

さっきから何か飲んでるなとは思っていたが、このおっちゃん、ウイスキーの水割りを飲みながら接客していたのだ。まさか、饒舌だったのはそのせいか?

驚きと戸惑いのせいで、頭の隅の方で何と言って断るか考え始めていたのが吹き飛んでしまって、流れに身を任せて言葉に甘えることにした。

 

真っ白で、少しウェーブのかかっている、わりと繊細な作りのコーヒーカップに、おっちゃんはごろんごろんと氷を入れる。ウイスキーをどぽどぽ注ぎ、上から水でうめて、「濃かったら適当に薄めてね」と水差しごと渡された。おつまみはクリームチーズ。それも箱ごとで、セルフサービスだった。

おっちゃんはカウンターの私とは反対の端に座って話し出す。自分の仕事遍歴や、娘の仕事の話、かつての常連さんや、お店でアルバイトをしていた学生たちとの思い出。いつもこういう調子で接客しているのだろう、毎日たくさんの人と話しているだけあって、エピソードは尽きない。

それなりに面白かったものの、二杯目に入っても一向に話の終わる気配がない。おっちゃんのなけなしの仕事モードはもはや完全に解けている。

これ、どうなったら終わるんだろう。もしかして、放っといたらおっちゃんが酔いつぶれるまで終わらないんじゃないか。さすがに落ち着かなくなってきて、帰るタイミングを見計らい始めた頃、ふいにおっちゃんが言った。

「もし今の仕事のほかに好きなこと、やってみたいことがあるなら、やってみた方がいいよ」

 

びっくりしてしまった。このまま新卒で入社したところで働き続けるべきかどうかというのは、最近ずっとぼんやり考えていたことだった。

でも、その時私は仕事に不満があるなんて言っていない。何の悩みを打ち明けたわけでもないのに、どうして急にそんなことを言われたのかわからない。 

余計なお世話と言えばまあかなり余計なお世話だ。場合によっては何かしらのハラスメントに該当するのではないか。それに、別に私の言動から何か察したというわけではなく、お酒を飲んだらそういうことを言いたい気分になっただけなのかもしれない。でも、その無責任な後押しが、その時はなんだかうれしかった。

 

そういうことが、たまにある。こんな風に、突然、そんなによく知ってるわけでもない人に、心に引っかかっていたことへの答えみたいなものをもらうことが、何年かに一回くらい。

すぐに何かが大きく変わるわけでも、動き出すわけでもない。でも、その時その人に言われたことが、いつかの何かへの伏線になっているような気がする。そういう言葉が、いくつか胸にしまってある。

それらを思い返す時、「人生という物語の主人公はあなた」みたいな、いつもならしゃらくせえなと思う言葉を、信じてみたくなったりするのだ。

2018年9月に観た映画

~もくじ~

映画館で観たもの

モリのいる場所 ~樹木希林さんっていい女優さんだったんだなあ~

2018.09.09 sun @下高井戸シネマ

下高井戸シネマのラインナップで初めて知った映画だったので、のんびり行ったら超満員で補助席どころか立ち見まで出ていて驚きました。そんなに人気作だったとは。

作品のせいなのか場所柄なのか年齢層が高めで、老人ネタがばか受けだったのが印象的でした。山崎努演じる老画家が自分の家の庭で迷子になっちゃうシーンとか、もう爆笑ですよ。たしかにとぼけた感じでかわいらしくはあったけど、若いお客さんが多かったらああは盛り上がるまい。

 

なんといってもすごかったのは主演の二人。

予備知識ゼロで観に行ったので実在の画家を題材にしたものだというのも知らなかったんですけど、あまりにも舞台や人物のディテールがしっかりしているので、これが全部フィクションだったらちょっと怖いな……と思いながら観ていました。

これを観た一週間くらい後に樹木希林さんの訃報を知ったんですけど、考えてみたら私たぶん樹木希林さんが演技してるとこ観たのこれが初めてだったんですよね。なんとなく、ご存命のうちに出演作を観ておけてよかったな、と思いました。だからどうというわけではないんだけれど。

mori-movie.com

 

家で観たもの

マイティ・ソー/ダーク・ワールド ~スタッフの中に、トム・ヒドルストンをエロい目で見ている人がいるよね????~

2018.09.30 sun @dTV

前作でもアベンジャーズでも、トム・ヒドルストン演じるところのロキがわりと唐突にフォーマルな格好をさせられてて、トム・ヒドルストンにそういう格好をさせたかっただけでは?と気になってたんですけど、今回で確信しました。トム・ヒドルストンに、いろんな格好をさせたいだけの奴がいる。スタッフの中に、確実にいる。

今回はフォーマルなコスプレじゃなくて*1牢に囚われてやつれた姿でしたけど、あのビジュアルは、トム・ヒドルストンが髪乱れてシャツはだけて弱々しい表情してるとこ見たいな~~っていう邪な気持ちの人が指定したやつでしょ?

…それはともかく。マイティ・ソーのシリーズは前作も今作も、めちゃくちゃ面白い!って感じではなかったんですけど、ソーがいつも一生懸命で素直なのがなんかいいですね。アベンジャーズの面々には珍しく、我欲で動かないし、うじうじ悩まないし、魔が差して変なことしたりしないし、善良すぎて心配にはなるけど、見てて嫌な気持ちにはならないというか。

それに比べてロキは、大変な事態を引き起こすわりに動機がしょぼいというか、立ち居振る舞いがめっちゃ小物ですよね~。全然悪役としての風格がない。あんな格好良い俳優さんが演じてるのに。そこがなんかかわいそうで好きなんですけど…好きっていうか、何かの形で幸せになれるといいねみたいな…でもこの人に思い入れると後々つらいことになるんでしょ…?知ってるんだ……

とりあえず次は劇場公開された時に気になっていたキャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャーなので楽しみです。

 

*1:よく考えたらロキの格好の方がコスプレなんだけど

2018年8月に観た映画

ずいぶん間が空いちゃったんですけど、古いのはひとまず飛ばして先月の話をします。
ちゃんと感想書こうとすると時間かかっちゃうので、観た映画をもれなく記録することを優先して気楽にやろう……

~もくじ~

映画館で観たもの

カメラを止めるな! ~休日の前の夜に観るのに最高の映画~

2018.08.15 wed @TOHOシネマズ六本木ヒルズ

出オチならぬアイディアオチみたいなとこあるし、そのアイディアも前代未聞の超斬新なアイディアかと言えばそうでもない(んだろうな~と思っただけで具体例は知らんけど)んですけど、でも、こんなの!こんな風にされたら、そういうこと言う方が野暮って感じになるじゃないか!ずるい!

これはもう楽しんだ者勝ちだなって思わせてくれる、すごくハッピーな映画でした。

六本木だし夜遅めの時間だったしでお客さんのリアクションが良かったのも、映画館で映画を観る醍醐味~って感じで良かったです。

kametome.net

君の名前で僕を呼んで ~休日の前の夜に観ないと死ぬ映画~

2018.08.17 fri @下高井戸シネマ

ちょっとあほみたいなこと言うので薄目で読んで欲しいんですけど……

感情のせいで胸が痛くなることって本当にあるんだな……

運動不足で体がなまりきってるのにいきなりフルマラソン走った感じで(フルマラソン走ったことないけど)、呼吸器がオーバーヒートしてるし筋肉痛待つまでもなく全身痛くなってて、みたいな……いやさすがにそこまで肉体的なダメージは負いませんでしたけど。なんていうか、心も体と同様ある程度定期的に動かしとかないとだめですね。

家で一人で観るのに向いてる映画だと思うんですけど(ベッドシーンも結構しっかりあるし……)、一人で観てたら最後まで観れてなかったかもしれない。強すぎて。

どうしてそんなに当てられてしまったのかちょっと考えてたんですけど、こんなに純度の高いラブストーリーって久し振りだったんですよね。同性のラブストーリーって、ちょっと昔の時代が舞台になってると特に*1、本人の葛藤、周囲の反対、好奇の目、さらに国と時代によっては犯罪者として裁かれ……って、わりと悲劇的な感じに描かれがちじゃないですか? そういえばこの作品はそういうのが全然なかったんですよね。両親も温かく見守ってるし*2。もうね、たぶん、その分のエネルギーを全部二人のラブを美しく描くことに回しちゃったんだと思う。そりゃ強いわ~~。

とはいえ、ただ美しいだけではなく、締めるとこはちゃんと締めてきたなあ、と思ったのが、物語の終盤、お父さんが主人公に語りかけるところ。自分のFilmarksのレビューに「途中まで3.8くらいの気持ちで観てたけど終盤のお父さんの長台詞で4.2になった」って書いてあったんですが、私もそう思う。何がどう良かったかを書くとねたばれになっちゃうので控えますが、もうご覧になった方はこれ(スクリプト)読んで一緒に反芻しましょう。PDFの76枚めからです。

 

ところで、ツイート見て思い出したんですけど、この日めちゃくちゃ夏の終わり~~って感じの天気だったんですよね。ちょっと涼しくて。

この日、夕飯ちゃんと食べたのかな、私。

cmbyn-movie.jp

家で観たもの

アイアンマン3 ~ペッパーを幸せにしなきゃ許さんぞスターク~

2018.8.31 fri

トニー・スタークの気持ちがわからないでおなじみ(私の中で)アイアンマンシリーズも3作目となりましたが、ちょっとずつ、本当にちょっとずつだけど彼のかわいげというか愛嬌がわかってきたような気がします。間にシャーロックホームズを挟んだのも良かったかもしれない。あのロバート・ダウニー・Jr好きでした。

でも、ペッパーは毎回ほんとに大変そうなので、ペッパーならもっといい男を見付けられるんじゃないか、あそこまでの刺激はなくても、穏やかな暮らしを手に入れた方が幸せなのでは、と、お節介おばさんになってしまう。あんたみたいな器量と気立てなら、いくらでも貰い手があるわよ!

*1:この映画の舞台は1983年のイタリアらしい

*2:いいお母さんといいお父さんなんだこれがまた……